2016年2月11日木曜日

春寒


立春のその一日に貫かれ

睦月てふガールフレンドその昔

招いても寄り来ぬ猫や冴返る

春寒やまだなにもなき造成地

学校の二月を離れ命かな

かまくらに友情のごとき鍋つつく

雪解けをたつぷりと載せ列車来る

恋猫や無きがごときの庭囲ひ

まだ生きて雪濁りするこの川と

薄氷や花を買ひたくなりにけり

バレンタインの日の楽しさや箱の色

早春の新聞を開き人を待つ

初午の味の濃淡稲荷寿司

幼少期前世のごとし猫柳

疲れたる夜は春菊に救はれて

まだ咲かぬうちから梅のことばかり

遠き野火見てゐるなんと贅沢に

寒明のそろそろ増えて来る誘ひ

詩のごとく獺祭といふ言葉聞く

針供養済まぬうちから酒のこと

どうせなら氷上に写す公魚を

春時雨灯に誘はれて夜の街

海苔採に行く人我は行かぬ人

雪崩の報聞きて見えない山を見る

世を厭ふわけでもなくて冱返る

白魚にあはせ野菜を見繕ふ

末黒野やはや盛りへと年進む

春の風邪雑誌を閉ぢて目を瞑る

水菜ばかりで済ましたき夜の独りかな

菠薐草なにか頼もし深緑

教室の日当たり側のクロッカス



2015年5月7日木曜日

夏めくや

夏めくや静かに試練受ける肌

思ひ出の彼方の人と麦めしと

牡丹園われら疲れるいとまなく

街から街新樹続けばどこまでも

若楓盛時の今を揺れてをり

葵祭神田祭と畳みかけ

母の日は不愉快になる息子われ

軽暖ともいふが薄暑のほうが好き

新茶古茶むかし縁側ありし頃

柏餅ふたつすぐ喰ふ三つまでも

かけられし幼時の期待鯉幟

子供の日子供のなきも故ありて

余花なれば見つめぬもよし過ぐもよし

袷着て夕餉ののちを花めぐり

葉桜の深くなりゆく早さかな

色の濃き矢車菊を去りがたし

筍のここもむかふも異形なり

そら豆の添へられてゐる嬉しさよ

花みづきバス通りまで数へゆく

アカシヤのかをり降りゐる曲り角

昼薔薇に飽きて夕薔薇深夜薔薇

卯の花に似てひそやかに幸せに

売り声の楽しさもあり初鰹

高原のレストランなれば虹鱒も

草笛も吹くべしビル群遠き原

うんざりとなるほどの皐月まだ皐月

どことなく一流ならぬ躑躅花

マーガレット満つ庭もかつて持ちてゐし

折れず倒れず雛罌粟に学ぶこともあり

この時期は鯖ピチピチと張りつめて


2015年4月3日金曜日

万年馬鹿

桃の花遠くに見えて長電話

四月馬鹿ならぬ万年馬鹿もゐて

忙しくなるふりもして新学期

麗かに急行さへも滑り入る

辛菜をたゞ煮て食べる贅沢に

気分だけちよつと新たに春大根

鶯餅椿餅草餅蕨餅

まだ寒いころ三椏の爺臭さ

勝手口に似合う辛夷の闇姿

木蓮は盛りを過ぎること早し

木瓜の花かたちは悪くなきものの

春の宵台所にひとり立つもよし

遠く近く春灯ありて飛鳥山

亀鳴くといはるゝ池やまだ鳴かぬ

柳の葉すべてに若き時はあり

赤坂ゆ飯田橋まで桜狩

おなじ人と花見をするも二三年

花の茶屋コカコーラなど飲む爺

花めぐり無きにしもあらず寂しさも

年増とはいかなるものか八重桜

朝桜どうでもいい世となりにけり

珈琲の旨くなる日よ花曇

ふんだんに見収めて花の塵を掃く

菜の花に犬は駆け寄りたがるもの

復活祭甦らないこともよし

さへづりに仰げば空とさみどりと

壺焼に終はりしいのち頂きぬ

桜貝まぼろしとなる誰もかも

春潮を見に行かぬまゝ何年目

夕暮れのとりわけ寂し潮干狩

この年もなかばに近し夏の服

冬座敷

冬座敷まだ誰も来ずうとうとと

炭をつぐこの一時の贅沢や

襟巻を大切に巻く可愛い子

マスクして冬野もどこか暖かし

信号待ちしてゐるわれと白菜と

クリスマスじつは楽しむ男なり

社会鍋渋谷に暮れるこの年も

ボーナスに縁なくなりて渡世かな

粕汁は好物にして深夜まで

寄鍋をひとりの夜にたゞ思ふ

初氷するどき心保つべし

鴛鴦の二羽ゐるゆゑの寂しさよ

冬帝のひしひしと腰に染みてくる

冬の空あつけらかんと澄みわたる

水鳥は水鳥として暮れにけり

息白く駅頭に待つ楽しさよ

冬木立むかし昔の物語

枯木とは美しきものか歳月も

冬ざれを見に来いといふ見に行くよ

白菜を老いゆくわれは好みゆく

嫌ひでもなけれど好きでもなきおでん

焼芋を買つていかうか午後三時

女ゐてひそかにともに湯豆腐を

今晩は蕎麦湯がやけに旨いよね

眠る山つらなる景よ行く汽車よ

赤坂や狸出てまた引つ込んで

都鳥また東京の冬を見に

裸電球浴びて山なすずわい蟹

ハタハタの塩つぱさに進むにごり酒

冬籠る口実とせむ冬至来る

枯芙蓉

漱石忌われは読み継ぐバルザック


忙しといふ暇もなく十二月


霜月や霜のはだらの菊畑


決戦の準備にかかる冬みかど


布団干す時の切実短日は


冬の日を鼻風邪程度に抑えつゝ


寒すぎるほどにはあらぬ冬の朝


凍雲を疎林の道に遠望す


鴨一羽二羽寂しくて町の川


あのあたり廊下の寒さ澄みてをり


冷たさは精神の緩み顔洗ふ


冬木まばらに小さき神社守りゐぬ


大学は冬木立してありにけり


猟人の話もまぜて北の宿


猪鍋を食べに来いとは言はれても


枯野とは賑やかに葉のなるところ


湯豆腐を嵯峨野に喰ひに東海道


夜鷹蕎麦肝心の夜鷹なき無粋


スーパーの入口楽し焼藷で


おでんやの奥の明りの暖かさ


粕汁は好物なれば贅沢に


人参を選び続ける馬鹿らしさ


葉の色の立派な蕪買ひ得たり


枯菊の縁取りのある荒地なり


蝋八会われはこの日もメトロ禅


枯芙蓉世をせかせかとさせたまゝ


熱燗を本当に熱く出しやがる


貞徳忌あの鷹揚さ学び続くべし


里神楽寒さ冷たさ眠たさも


冬の海憧れてゐる町住まひ


ずわい蟹爺婆と食べに行くのもなア

鵙の目

秋の虹をととひも見て今日も見て

山霧のフォト添付され来るメール

秋晴のぽつちやりさんの肥えぐあひ

木の実ナナといふひと昔近隣に

柿食へばと言ひたけれども猶硬し

菊人形みごとなれども冷たさは

運動会砂混じるいなり頬張りて

ぬくめ酒やゝ曖昧なあぢはひも

角切はそこそこに見て甘酒を

やや寒きどころではなき寺の床

就活の学生のうなじうそ寒し

茜掘る人去りし後のお~いお茶

蘆火見たことなき川に蘆を見る

堂々と風受ける荻の荻らしさ

蒲の穂の絮毟り毟り寂しさよ

火祭や夜を焼くことを伝承す

敗荷を見つつぽつぽつ話出す

猿酒を心の森に諦めず

栗飯に合ふ酒を聞かれ絶句する

焼銀杏喰へと言はれて贅沢に

犬も子も雑木紅葉を喜びて

鵙の目のかはいらしさが狙ひゐる

澄ますべきもの沢山に長月や

秋の野に恋するフォーチュンクッキーも

薄紅葉遠く近くの緋毛氈

いろいろな人来て去りぬ秋の雨

椎茸の肉厚のものをやはり買ふ

新米に秋刀魚も揃ふ宵となり

背後には舞ひ戻り来る稲雀

立ち止まり立ち止まりして後の月


石榴もがれて

砧打つ音など聞いたこともなし

初猟と聞けば耳澄む耳澄ます

秋の川無音の行に入りにけり

色鳥を追ふまなざしの主われも

ビニールの袋に林檎なまめかし

いつのまに石榴もがれて帰り道

渋柿をまづ食はされるポチやシロ

甘かつた無花果といへば中近東

桐の実も眺めつつ待つおやつ時

やや寒き朝の都会を新靴で

牛蒡引くさま思ひつつも買ふのみで

馬鈴薯をやつぱり入れることにする

重くなる荷もしかたなし甘藷買ふ

梅もどき暮れがたの苑閉まる頃

障子洗ふ家なども過ぐひとり旅

ゐのこづち付けて出てくるかくれんぼ

団栗のはかま見事な作りなり

丑三つ時胡桃食べたし飽きるほど

銀杏の臭ふこの先しばらくは

木の実降る音贅沢に茶屋の餅

秋雨の首相がなにか言つてゐる

秋うらら犬とあるじを蔓延らす

金木犀だつたかと思ふ灯を落とす

自販機を台風は洗ふ縦横に

秋夕焼白い表紙の本届く

秋袷ひかり受けゐる喜びを

下手な字で新酒と書いてある酒屋

鹿威し程よく聞こえ古刹かな

秋耕やわれは見てゐるだけの人

鹿垣の開け締めをひとりたゞひとり