立春のその一日に貫かれ
睦月てふガールフレンドその昔
招いても寄り来ぬ猫や冴返る
春寒やまだなにもなき造成地
学校の二月を離れ命かな
かまくらに友情のごとき鍋つつく
雪解けをたつぷりと載せ列車来る
恋猫や無きがごときの庭囲ひ
まだ生きて雪濁りするこの川と
薄氷や花を買ひたくなりにけり
バレンタインの日の楽しさや箱の色
早春の新聞を開き人を待つ
初午の味の濃淡稲荷寿司
幼少期前世のごとし猫柳
疲れたる夜は春菊に救はれて
まだ咲かぬうちから梅のことばかり
遠き野火見てゐるなんと贅沢に
寒明のそろそろ増えて来る誘ひ
詩のごとく獺祭といふ言葉聞く
針供養済まぬうちから酒のこと
どうせなら氷上に写す公魚を
春時雨灯に誘はれて夜の街
海苔採に行く人我は行かぬ人
雪崩の報聞きて見えない山を見る
世を厭ふわけでもなくて冱返る
白魚にあはせ野菜を見繕ふ
末黒野やはや盛りへと年進む
春の風邪雑誌を閉ぢて目を瞑る
水菜ばかりで済ましたき夜の独りかな
菠薐草なにか頼もし深緑
教室の日当たり側のクロッカス
夏めくや静かに試練受ける肌
思ひ出の彼方の人と麦めしと
牡丹園われら疲れるいとまなく
街から街新樹続けばどこまでも
若楓盛時の今を揺れてをり
葵祭神田祭と畳みかけ
母の日は不愉快になる息子われ
軽暖ともいふが薄暑のほうが好き
新茶古茶むかし縁側ありし頃
柏餅ふたつすぐ喰ふ三つまでも
かけられし幼時の期待鯉幟
子供の日子供のなきも故ありて
余花なれば見つめぬもよし過ぐもよし
袷着て夕餉ののちを花めぐり
葉桜の深くなりゆく早さかな
色の濃き矢車菊を去りがたし
筍のここもむかふも異形なり
そら豆の添へられてゐる嬉しさよ
花みづきバス通りまで数へゆく
アカシヤのかをり降りゐる曲り角
昼薔薇に飽きて夕薔薇深夜薔薇
卯の花に似てひそやかに幸せに
売り声の楽しさもあり初鰹
高原のレストランなれば虹鱒も
草笛も吹くべしビル群遠き原
うんざりとなるほどの皐月まだ皐月
どことなく一流ならぬ躑躅花
マーガレット満つ庭もかつて持ちてゐし
折れず倒れず雛罌粟に学ぶこともあり
この時期は鯖ピチピチと張りつめて
桃の花遠くに見えて長電話
四月馬鹿ならぬ万年馬鹿もゐて
忙しくなるふりもして新学期
麗かに急行さへも滑り入る
辛菜をたゞ煮て食べる贅沢に
気分だけちよつと新たに春大根
鶯餅椿餅草餅蕨餅
まだ寒いころ三椏の爺臭さ
勝手口に似合う辛夷の闇姿
木蓮は盛りを過ぎること早し
木瓜の花かたちは悪くなきものの
春の宵台所にひとり立つもよし
遠く近く春灯ありて飛鳥山
亀鳴くといはるゝ池やまだ鳴かぬ
柳の葉すべてに若き時はあり
赤坂ゆ飯田橋まで桜狩
おなじ人と花見をするも二三年
花の茶屋コカコーラなど飲む爺
花めぐり無きにしもあらず寂しさも
年増とはいかなるものか八重桜
朝桜どうでもいい世となりにけり
珈琲の旨くなる日よ花曇
ふんだんに見収めて花の塵を掃く
菜の花に犬は駆け寄りたがるもの
復活祭甦らないこともよし
さへづりに仰げば空とさみどりと
壺焼に終はりしいのち頂きぬ
桜貝まぼろしとなる誰もかも
春潮を見に行かぬまゝ何年目
夕暮れのとりわけ寂し潮干狩
この年もなかばに近し夏の服
冬座敷まだ誰も来ずうとうとと
炭をつぐこの一時の贅沢や
襟巻を大切に巻く可愛い子
マスクして冬野もどこか暖かし
信号待ちしてゐるわれと白菜と
クリスマスじつは楽しむ男なり
社会鍋渋谷に暮れるこの年も
ボーナスに縁なくなりて渡世かな
粕汁は好物にして深夜まで
寄鍋をひとりの夜にたゞ思ふ
初氷するどき心保つべし
鴛鴦の二羽ゐるゆゑの寂しさよ
冬帝のひしひしと腰に染みてくる
冬の空あつけらかんと澄みわたる
水鳥は水鳥として暮れにけり
息白く駅頭に待つ楽しさよ
冬木立むかし昔の物語
枯木とは美しきものか歳月も
冬ざれを見に来いといふ見に行くよ
白菜を老いゆくわれは好みゆく
嫌ひでもなけれど好きでもなきおでん
焼芋を買つていかうか午後三時
女ゐてひそかにともに湯豆腐を
今晩は蕎麦湯がやけに旨いよね
眠る山つらなる景よ行く汽車よ
赤坂や狸出てまた引つ込んで
都鳥また東京の冬を見に
裸電球浴びて山なすずわい蟹
ハタハタの塩つぱさに進むにごり酒
冬籠る口実とせむ冬至来る
漱石忌われは読み継ぐバルザック
忙しといふ暇もなく十二月
霜月や霜のはだらの菊畑
決戦の準備にかかる冬みかど
布団干す時の切実短日は
冬の日を鼻風邪程度に抑えつゝ
寒すぎるほどにはあらぬ冬の朝
凍雲を疎林の道に遠望す
鴨一羽二羽寂しくて町の川
あのあたり廊下の寒さ澄みてをり
冷たさは精神の緩み顔洗ふ
冬木まばらに小さき神社守りゐぬ
大学は冬木立してありにけり
猟人の話もまぜて北の宿
猪鍋を食べに来いとは言はれても
枯野とは賑やかに葉のなるところ
湯豆腐を嵯峨野に喰ひに東海道
夜鷹蕎麦肝心の夜鷹なき無粋
スーパーの入口楽し焼藷で
おでんやの奥の明りの暖かさ
粕汁は好物なれば贅沢に
人参を選び続ける馬鹿らしさ
葉の色の立派な蕪買ひ得たり
枯菊の縁取りのある荒地なり
蝋八会われはこの日もメトロ禅
枯芙蓉世をせかせかとさせたまゝ
熱燗を本当に熱く出しやがる
貞徳忌あの鷹揚さ学び続くべし
里神楽寒さ冷たさ眠たさも
冬の海憧れてゐる町住まひ
ずわい蟹爺婆と食べに行くのもなア
秋の虹をととひも見て今日も見て
山霧のフォト添付され来るメール
秋晴のぽつちやりさんの肥えぐあひ
木の実ナナといふひと昔近隣に
柿食へばと言ひたけれども猶硬し
菊人形みごとなれども冷たさは
運動会砂混じるいなり頬張りて
ぬくめ酒やゝ曖昧なあぢはひも
角切はそこそこに見て甘酒を
やや寒きどころではなき寺の床
就活の学生のうなじうそ寒し
茜掘る人去りし後のお~いお茶
蘆火見たことなき川に蘆を見る
堂々と風受ける荻の荻らしさ
蒲の穂の絮毟り毟り寂しさよ
火祭や夜を焼くことを伝承す
敗荷を見つつぽつぽつ話出す
猿酒を心の森に諦めず
栗飯に合ふ酒を聞かれ絶句する
焼銀杏喰へと言はれて贅沢に
犬も子も雑木紅葉を喜びて
鵙の目のかはいらしさが狙ひゐる
澄ますべきもの沢山に長月や
秋の野に恋するフォーチュンクッキーも
薄紅葉遠く近くの緋毛氈
いろいろな人来て去りぬ秋の雨
椎茸の肉厚のものをやはり買ふ
新米に秋刀魚も揃ふ宵となり
背後には舞ひ戻り来る稲雀
立ち止まり立ち止まりして後の月
砧打つ音など聞いたこともなし
初猟と聞けば耳澄む耳澄ます
秋の川無音の行に入りにけり
色鳥を追ふまなざしの主われも
ビニールの袋に林檎なまめかし
いつのまに石榴もがれて帰り道
渋柿をまづ食はされるポチやシロ
甘かつた無花果といへば中近東
桐の実も眺めつつ待つおやつ時
やや寒き朝の都会を新靴で
牛蒡引くさま思ひつつも買ふのみで
馬鈴薯をやつぱり入れることにする
重くなる荷もしかたなし甘藷買ふ
梅もどき暮れがたの苑閉まる頃
障子洗ふ家なども過ぐひとり旅
ゐのこづち付けて出てくるかくれんぼ
団栗のはかま見事な作りなり
丑三つ時胡桃食べたし飽きるほど
銀杏の臭ふこの先しばらくは
木の実降る音贅沢に茶屋の餅
秋雨の首相がなにか言つてゐる
秋うらら犬とあるじを蔓延らす
金木犀だつたかと思ふ灯を落とす
自販機を台風は洗ふ縦横に
秋夕焼白い表紙の本届く
秋袷ひかり受けゐる喜びを
下手な字で新酒と書いてある酒屋
鹿威し程よく聞こえ古刹かな
秋耕やわれは見てゐるだけの人
鹿垣の開け締めをひとりたゞひとり